なぜ飛行機に乗るとオニオンコンソメスープが普段より美味しく感じるのか?高度1万メートルで人間の味覚が変化する理由

コラム
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飛行機に乗って機内サービスが回ってくると、なぜか普段はあまり選ばない「オニオンコンソメスープ」や「トマトジュース」を注文してしまう……そんな経験はありませんか。実はこれ、あなただけの気まぐれではなく、世界中の航空会社で観測されている非常に有名な現象です。例えば、ドイツの航空会社ルフトハンザの調査では、機内で提供されるトマトジュースの量が年間で180万リットル以上に達し、ビールと同じくらいの人気を誇ることが分かっています。

普段の生活では「少し味が濃い」「進んでは選ばない」という人も多いスープやジュースが、なぜ上空に入った途端に大人気メニューへと変貌するのでしょうか。

単なる気分の問題かと思いきや、実は人間の「味覚」が上空の特殊な環境によって物理的に変化しているということが、科学的な研究によって明らかになってきました。この不思議な現象に本格的なスポットが当たった背景には、航空会社による「機内食を美味しくしたい」という長年の研究があります。

地上では絶品とされる料理であっても、飛行機の中で食べると「味が薄い」「なんだか素朴で物足りない」と感じられてしまうことがよくありました。乗客から「機内食が美味しくない」という不満が出るたびに、シェフたちは首をかしげていたのです。

そこで研究者たちは、料理の味そのものを疑うのではなく、「高度1万メートルという機内環境が、人間の舌や鼻にどのような影響を与えているのか」というアプローチから調査を開始しました。

ドイツの有名研究機関であるフラウンホーファー捕獲・耐久性研究所(Fraunhofer IBP)が行った研究では、地上に機内の環境(低気圧・低湿度・エンジンの騒音)を再現したシミュレータを用意し、人の味覚がどう変化するかを詳細に測定しました。

その結果、飛行中の機内と同じ「極度に乾燥した空気」と「低い気圧」に晒されると、人間の舌にある味蕾(味を感じるセンサー)の感度が鈍ることが判明しました。特に「甘味」と「塩味」を感じる能力は、地上に比べて約15%〜30%も低下してしまうことが分かったのです。

さらに重要なのが「匂い」の影響です。湿度が10%以下まで下がる機内では鼻の粘膜が乾燥し、匂いを感じ取る受容体がうまく機能しなくなります。私たちが普段感じている「味」の大部分は鼻から抜ける香りに依存しているため、湿度の低下は味覚全体を著しく鈍らせてしまいます。

ここで登場するのがオニオンコンソメスープです。地上で飲むスープは、人によっては「塩分や香りが強すぎる」と感じられることがあります。しかし、甘味や塩味が感じにくくなった上空では、その強い塩気がちょうど良くマイルドに抑えられます。

加えて、タマネギや肉の出汁に豊富に含まれる「うま味(グルタミン酸やイノシン酸)」は、低気圧や低湿度の環境下でも舌で感じ取りやすいという特徴を持っています。つまり、他の味がぼやけてしまう上空において、コンソメスープが持つしっかりとした「うま味」だけが際立ち、最高に美味しい飲み物として脳に認識されるというわけです。

この研究結果は、単に「飛行機でスープが美味しくなる」という雑学にとどまりません。私たちが普段感じている「美味しさ」という感覚が、いかに周囲の環境(湿度、気圧、さらにはエンジンの低音などの環境音)によって簡単に変化してしまうかを示す興味深い例と言えます。

航空会社はこの知恵を活かし、現在の機内食では地上よりも塩分や香辛料を少し強めに利かせたり、うま味成分を多く含んだ食材(タマネギ、トマト、チーズ、キノコなど)を積極的に取り入れたりしてメニューを改善しています。

私たちが「美味しい」と感じる体験は、食べ物そのものの品質だけでなく、私たちの身体と空間が作り出す総合的な科学反応なのだと教えてくれます。

上空1万メートルの機内は、地上とは全く異なる「味覚の異次元空間」です。自分の感覚を信じ切っている私達ですが、環境ひとつで舌のセンサーがガラリと変わってしまうのはどこか面白くもあります。

もし今度飛行機に乗る機会があれば、普段はあまり選ばないオニオンコンソメスープやトマトジュースをぜひ試してみてはいかがでしょうか。地上では味わえない、高度1万メートルだけの特別な美味しさに出会えるかもしれません。

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