

もうひとつの隠れた悩み
世の中の雑誌やインターネットの広告を見渡すと、そこにあるのは、「どうすれば効率よく痩せられるか」というダイエットの話題ばかりです。
糖質を制限しましょう!とか、この運動で脂肪を燃やしましょう!といった魅力的な言葉が溢れ、世間の多くの人は、少しでも体重を減らすために日々努力を重ねているように見えます。
しかし、そんな賑やかな流行の片隅で、全く逆の悩みを抱えて静かに困惑している人たちがいます。それが、「どう頑張っても太れない」という切実な問題です。
周りの人からは、「たくさん食べられて羨ましい」とか、「太らないなんて最高の体質だね」などと悪気なく言われることが多いのですが、当の本人は真剣に悩んでいたりします。
服を着てもどこか貧相に見えてしまって格好がつかない。とかとか、体力がなくてすぐに疲れてしまう。夏場に半袖を着るのがなんとなく恥ずかしい。といった、他人にはなかなか理解してもらえないやりづらさがあるのです。
「健康的に」ふっくらとした、あるいはがっしりとした体つきになりたい。そう願って、夜遅くに無理してラーメンを食べてみたり、間食を増やしてみたりするものの、翌朝にお腹を壊してかえって体重が落ちてしまう。
そんな風に、太りたいのに太れないという矛盾した格闘を続けている夜を、みなさんも経験したことがあるのではないでしょうか。
たくさん食べれば解決する?そんな事ありません
この「太れない」という悩みについて、周囲に相談したりネットで調べたりすると、大抵の場合は、「とにかくもっとカロリーを摂りなさい」という非常にシンプルで力強いアドバイスが返ってきます。
「白米をいつもの倍食べろ」とか、「寝る前にチョコレートを食べれば一発だ」とか、「プロテインを牛乳で流し込め」といった、いわば胃袋の限界に挑戦するような根性論のストーリーが定番になっています。雑すぎる。
要するに、消費するエネルギーよりも摂取するエネルギーが多ければ、人間の体は自然と大きくなるはずだという、算数の引き算のような理屈ですね。それができりゃ苦労しない。
確かに理論上はその通りです。食べ物から入ってくるエネルギーが上回れば、体の中に何かしらの形で蓄えられていくというのは正しい科学の法則に見えます。
しかしこの、「たくさん食べればいいじゃない?」という単純なアドバイスには、太れない人たちの体の現実が置き去りにされているような違和感が残ります。それが簡単にできたら苦労はしないわけで、たくさん食べようとしてもすぐに満腹になってしまう、あるいは無理して詰め込んでも体がそれを受け付けてくれないからこそ、多くの人が人知れず悩んでいるはずなのです。
なぜ、食べても食べても砂漠に水を撒くように、体に栄養が残らないような感覚に陥ってしまうのでしょうか。そこには、私たちの努力の足りなさとは別に、人間の体や体質が持っている複雑な仕組みがあります。
「胃腸の個性」と消費のスピードをめぐる事実
ここで、人間の体が栄養を吸収し、体重が変化していく仕組みについて、いくつかの専門的な調査や研究で見えてきた具体的なデータに目を向けてみましょう。
そもそも、私たちが食べたものは、胃で細かく砕かれ、腸で栄養として吸収されることで初めて体の一部になります。しかし、消化吸収の能力には驚くほど大きな個人差があることが、近年の研究で分かってきています。
太りにくいと感じている人の腸内のデータを調べてみると、同じカロリーの食事を摂っていても、効率よく栄養を吸収できずに、そのまま体の外へ素通りさせてしまっている割合が高いという報告があります。つまり、胃腸の燃費が良くないという個性が、最初から存在している可能性があるのです。
また、基礎代謝と呼ばれる、「じっとしているだけでも消費されるエネルギーの量」にも大きく個人差があります。調査によると、太りにくい体質の人は、無意識のうちに体が細かく動いていたり、体温を維持するために他の人よりも多くのエネルギーを勝手に消費してしまったりする傾向があるそうです。スマートフォンに例えるなら、大して使っていないのに裏側でアプリが何個も動いていて、バッテリーがみるみる減っていくような状態が、生まれつき体の中で起きているのかもしれません。
さらに、「健康的に体重を増やす」という目標において、ただ脂肪を増やすだけでは体調を崩すリスクがあることもデータで示されています。栄養不足のまま脂肪だけが急激に増えると、糖尿病などの生活習慣病のリスクがかえって高まるという事実もあり、健康的に太るためには、単に体重計の数値を増やすだけでなく、筋肉と脂肪のバランスを丁寧にとっていく必要があることが分かっています。
栄養が体にとどまらない構造的な背景
胃腸の吸収力や基礎代謝の個人差という事実を踏まえると、私たちが健康的に太ろうとしたときに、うまく目標に届かないのには、いくつかの構造的な理由が考えられます。
ひとつは、食事の回数と胃袋のキャパシティのミスマッチです。太れない人の多くは、一度にたくさんの量を消化するのが苦手な傾向があります。それなのに、一般的な生活習慣に合わせて朝、昼、晩の三回だけで必要な栄養を補おうとすると、一回の食事量が多くなりすぎて胃腸が悲鳴を上げてしまいます。
結果として、消化不良を起こしてかえって栄養が吸収できないという、不器用な空回りが起きてしまうわけです。
もうひとつは、ストレスや自律神経の働きが胃腸の動きに与える影響です。現代社会は何かと忙しく、知らず知らずのうちに緊張や不安を抱えがちです。
人間はストレスを感じると、体を活動モードにする交感神経が優位になりますが、このとき胃腸の働きはストップしてしまうという性質があります。
真面目で色々なことに気がつく人ほど、食事の時間になっても体がリラックスできず、結果として食べたものが栄養になりにくいという、心理面と身体面の連動が起きているのかもしれません。
さらに、運動の種類の選択ミスという側面もありそうです。体重を増やしたいからといって、健康のためにと毎日長い距離をウォーキングしたり、激しいランニングをしたりすると、せっかく摂ったエネルギーがその場で全て消費されてしまい、体を大きくするための材料が残りません。
太るための環境を作るには、エネルギーを使い果たす形の運動よりも、筋肉に適度な刺激を与えて食事の受け皿を作るような、少し種類の違うアプローチが必要になるという構造的な見落としがあるのかもしれません。
自分の体の燃費を知り、のんびり付き合う
こうして色々な側面を眺めてみると、健康的に太る方法というのは単に食べ物を口に放り込む根性論のゲームではありません。
自分の胃腸の個性を知り、日々の生活のペースを工夫しながら進めていく、非常に繊細で長期的な体との対話のようなものです。
明日から急にたくさん食べられるような大食いファイターに生まれ変わることは難しくても、一回の量を少し減らす代わりに間食を上手に挟んでみるとか、消化に優しい調理法を選んで胃腸を労ってあげるようなことは大きな無理なく達成可能です。
あるいは、無理な長距離の運動は控えて、ちょっとした筋力トレーニングで体に栄養を取り込むきっかけを作ってみるのも良い方法です。もしお悩みの読者さんがいらっしゃいましたら、まずは食事の記録をつけることから始めてみるのはいかがでしょうか。




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