EUで「ネット通販のスカスカな箱」が違法に。EUが無駄な空洞を制限する法律を施行した背景とは?

社会

ネット通販で小さな買い物をしたとき、部屋に届いた大きな段ボールを開けて驚いた経験はないでしょうか。大きな箱の底に小さなポータブルメモリやリップクリームがひとつだけ転がっていて、まわりは大量の紙やビニールの緩衝材(クッション材)で埋め尽くされている……というような光景です。

「壊れないようにするためかな?」と思いつつも、なんとなく無駄を感じたり、ゴミの処分に困ったりしたことがある人は多いはずです。

こうしたネット通販特有の「スカスカな箱」に対し、欧州連合(EU)が待ったをかけました。2026年8月、EUにおいて新しい包装規則(PPWR:包装および包装廃棄物規則)の本格的な適用段階が始まり、通販などで使われる箱の「無駄な空間(空洞)」を法律で厳しく制限する方向へと大きく踏み出しました。

なぜ今、国や地域が「通販の箱のスキマ」という、一見すると地味な問題にまで法律で口を挟むようになったのでしょうか。

背景にあるのは、世界中で急増し続けるEC(ネット通販)市場と、それに伴う大量の「ゴミ」および「輸送時の二酸化炭素(CO2)」の問題です。

物流現場では、商品の大きさに合わせて何十種類もの箱を用意するよりも、数種類の標準的な箱に商品をポンポン詰め込み、余ったスキマに緩衝材を詰める方が作業効率が良いという事情がありました。しかし、その結果として世界中で毎日「空気」や「プラスチックの緩衝材」をトラックや飛行機で運ぶという、非常にエネルギー効率の悪い現象が起きていたのです。

環境保護と資源の無駄遣い防止を最優先課題に掲げるEUは、こうした物流の「過剰な包装」を根本から変えようと動き出しました。

今回の規則(PPWR)では、通販の箱や輸送用パッケージにおける「空隙率(くうげきりつ:箱の中に占める無駄な空間の割合)」を最大50%以下に抑えることなどが義務付けられていきます。つまり、箱の中身の「半分以上が空気や緩衝材」という状態の梱包は認められなくなるということです。

画像
PPWR: New requirements for European packaging regulations in 2026 -eternity-systems

また、単に空間を減らすだけでなく、使用する包装材そのものの重量や容積を必要最小限に抑える「最小化原則」も求められます。
「空気を運ぶのをやめる」ことが実現すると、社会にはいくつもの大きな変化が生まれます。

第一に、トラック1台に乗せられる荷物の数が劇的に増えます。箱の無駄な膨らみが減れば、同じ配送車でより多くの荷物を一度に運べるようになり、輸送にかかるガソリン消費や二酸化炭素の排出を直接削減できます。物流業界の人手不足(2024年問題など)に対しても、配送効率を上げる力強い助けになります。

第二に、受け取る消費者側のストレスが減ります。大量の段ボールを切り刻んだり、プラごみを分別したりする手間が省け、部屋がゴミで圧迫されることもなくなります。

一見すると「箱を小さくするだけ」のシンプルな規制に思えますが、実は通販企業や物流現場にとっては非常に大きな技術的革新を迫られる挑戦でもあります。

自動梱包システムを導入して商品サイズを瞬時に計測し、その場でピッタリサイズの箱をオーダーメイドで作るマシンを導入したり、折りたたんでサイズを変えられる新型段ボールを開発したりといった、設備投資が必要になります。

また、精密機器などを衝撃から守るための安全性との兼ね合いをどう取るかという課題も残されています。単に緩衝材を削るだけでは配送中の破損事故が増えてしまうため、「最小限の素材で最大限の衝撃吸収をする設計」という新たな技術開発が進められています。

「スカスカな箱で届く」という日常のちょっとした違和感は、世界的な環境規制によって過去のものになりつつあります。

日本からEUに向けて商品を販売する越境EC事業者にも関係する話ですが、こうした「無駄な空洞をなくす」という取り組みは、今後日本国内のネット通販でも当たり前のマナーや標準として広がっていく可能性が高いと考えられます。

次にネット通販で荷物が届いたとき、箱の中にどれくらい「スキマ」があるか、少し観察してみてはいかがでしょうか。そこには世界の環境対策の最前線が映し出されているかもしれません。

タイトルとURLをコピーしました