地方のロードサイドを車で走っていると、突如として広大な敷地にそびえ立つ巨大なショッピングモール、いわゆる「イオンモール」が現れることがあります。周りは田んぼや畑ばかりで一見すると人が住んでいるようには見えない場所なのに、週末になると周辺の道路が大渋滞を起こすほど多くの家族連れが集まってきます。
「どうしてこんな何もない場所に作ったんだろう?」「街の中心部に出店したほうが人が集まるのでは?」と不思議に思ったことはないでしょうか。
実は、ゴルフ場の跡地に土地が余っているから適当に建てているわけではありません。一見すると無謀に見える「田舎の巨大モール」には、人間の行動パターンや地理学、都市計画の理論に基づいた緻密な計算とマーケティング戦略が隠されているのです。
この現象が都市計画や経済学の分野で注目される背景には、日本のモータリゼーション(自動車社会化)と地方都市の構造変化があります。
かつて昭和の時代、商業の中心地といえば主要な駅の周辺や商店街でした。人々は電車やバス、徒歩で買い物をしていたからです。しかし、1980年代以降、地方都市を中心に「1人に1台」レベルで自動車が普及しました。
これにより、車社会となった地方では「駅から近いこと」よりも「車でアクセスしやすく、駐車場に確実に止められること」の価値が圧倒的に高まりました。従来の駅前商店街は道路が狭く駐車場も不足していたため、時代の変化とともに消費者の需要を満たせなくなっていったのです。
では、なぜ企業はわざわざ「郊外の何もない場所」を選ぶのでしょうか。その理由は大きく分けて3つの地理的・経済的メカニズムで説明できます。
1つ目は、都市経済学や地理学で知られる「ハフモデル(店舗引きつけモデル)」という理論です。 この理論では、消費者がどの商業施設を選ぶかは「店舗の大きさ(魅力度)」に比例し、「そこに行くまでの距離(時間)」の2乗に反比例するとされています。
簡単に言えば、人間は「遠くても圧倒的に大きな施設」であれば、多少の移動時間をかけてでも行きたくなるという習性を持っています。中心市街地の狭いビルに分散して買い物に行くよりも、1か所で何でも揃う(ワンストップショッピングができる)巨大施設の方が、結果として広域から圧倒的な数の集客を可能にするわけです。
2つ目は、「モータリゼーションに対応した立地選定」です。 巨大モールが建てられる場所の多くは、単なる田舎ではなく「幹線道路や高速道路のインターチェンジ近く」です。これにより、単一の市町村だけでなく、車で30分〜1時間圏内にある周辺の複数の自治体から広域的に集客するネットワークを形成しています。
3つ目は、人間の「買い物以外の欲求」を満たす空間設計です。 社会学者のレイ・オルデンバーグが提唱した「サードプレイス(家でも職場・学校でもない、心地よい第3の居場所)」という概念があります。地方において、天候を気にせず子供を遊ばせられ、食事や映画、散髪、行政手続きまで一通り済ませられる巨大モールは、単なる買い物の場を超えて「地域のコミュニティ広場」としての役割を果たしています。心理的なハードルが低く、目的がなくてもとりあえず行ける場所として機能しているのです。
こうした郊外型巨大モールの存在は、私たちの生活様式や地方の姿に大きな影響を与えています。
消費者にとっては、天候に左右されず、車で大量の商品を買い込める利便性は非常に高いと言えます。一方で、郊外へ人が流出することで旧来の中心市街地(駅前商店街など)が衰退してしまう「ストロー現象」や「シャッター街化」を引き起こす要因としても議論されてきました。
また、車に乗れない高齢者や若者にとってはアクセスが制限されるため、交通手段による利便性の格差が生まれるという課題も指摘されています。
一見すると不自然に思える「田舎の巨大イオン」ですが、そこには自動車社会における移動コストの削減、集約された利便性、そして人々の居場所づくりという合理的な理由が存在しています。
近年では、人口減少や高齢化に対応するため、郊外への無秩序な拡大を抑え、生活機能をコンパクトにまとめる「コンパクトシティ」構想を掲げる自治体も増えています。
時代や人々のライフスタイルの変化に合わせて、街の形や商業施設のあり方はこれからも変化し続けていくと考えられます。次に郊外の巨大モールを訪れたときは、その広大な駐車場や立地に込められた戦略に思いを馳せてみると、いつもの買い物が少し違って見えてくるかもしれません。



