ガーデニング文化が深く根付いているイギリスで、いま意外な「植物」が人々の頭を悩ませています。それは、日本人にとっては馴染み深い「竹(タケ)」です。
エキゾチックで見た目が美しく、成長が早いため目隠しにも最適だとして、ここ20年ほどの間イギリスの家庭で観賞用として大人気となりました。しかし今、その竹が庭から脱走して隣の家に侵入し、住宅の土台や床を破壊する事態が相次いでいます。
「たかが庭の植物で裁判沙汰?」と思うかもしれませんが、事態は非常に深刻です。一体なぜ、イギリスで竹が大増殖し、これほどまでに大きな社会問題へと発展してしまったのでしょうか。
なぜ今、イギリスで竹の問題がこれほど注目されているのでしょうか。
背景には、イギリスの住宅事情とガーデニングブームがあります。イギリスではプライバシーを守るために庭の境目に植物を植える習慣がありますが、竹は1年で数メートルも伸びるため「手軽にきれいな垣根が作れる」としてホームセンターなどで大量に販売されました。
ところが、竹の繁殖力や根の強さについての正しい知識を持たずに植えてしまった人が多く、植えてから数年〜十数年が経った今、一斉にトラブルとして表面化し始めたのです。不動産鑑定士や住宅ローン会社もこの問題を重く受け止め始めており、竹の被害がある家は売却価格が大幅に下がったり、ローンが組めなくなったりする事例まで出てきています。

では、なぜ竹はこれほどまでに恐ろしい被害をもたらすのでしょうか。問題の核心は、竹の「地下茎(ちかけい)」と呼ばれる地下に伸びる根の仕組みにあります。
植物学や農学の研究でも知られている通り、竹は地上に見えている幹が1本ずつ独立しているのではなく、地下で太い根が網の目のように繋がっています。特にイギリスで人気だった「ランニング・バンブー(走る竹)」と呼ばれる走根性の種類は、地下数センチから数十センチの浅い場所を、1年で数メートルも横に勢いよく伸ばしていきます。
この地下茎の突き進む力は非常に強力です。コンクリートのわずかなヒビやすき間に入り込み、成長する圧力でレンガの壁やアスファルト、家の床下、排水管などを内部から破壊してしまいます。

イギリスの雑草管理や不動産保護の専門機関による調査でも、竹の根が隣の家の敷地に数メートル以上侵入し、パティオ(中庭の石畳)を持ち上げたり壁に亀裂を入れたりした事例が多数報告されています。一度侵入されると、重機を使って庭全体の土を掘り起こし、根を数ミリ単位で完全に取り除かない限り再び生えてくるため、駆除費用が数百万円単位にのぼることも珍しくありません。
こうした被害から、イギリスでは「隣の家から侵入してきた竹のせいで家が傷んだ」として、隣人を相手取った損害賠償請求訴訟や裁判沙汰が頻発する事態になっています。
この竹の大増殖問題は、私たちにとっても「外来種との付き合い方」や「環境管理」を考える上で非常に重要な意味を持っています。
ある地域では当たり前に存在する植物であっても、気候や天敵、住宅構造が異なる別の国に持ち込まれると、思わぬ「猛威」を振るう環境破壊要因(侵略的外来種のような存在)に変化してしまうという教訓を示しています。
日本でも放置された竹林が周囲の山林を侵食する「竹害(ちくがい)」が問題になっていますが、イギリスの事例はそれが都市部や住宅地という密接なコミュニティの中で起きた場合、どのような経済的・法律的トラブルに発展するかを如実に物語っています。
事態を重く見たイギリスの専門家や造園業界では現在、地下茎が広がりにくい種類の竹(バンチング・バンブー)を選ぶことや、植える際には必ず頑丈な防根シートで囲うといったガイドラインの周知を進めています。また、政府に対して竹の販売規制やリスク表示を義務付けるよう求める声も上がっています。
見た目の美しさや手軽さだけで植物を選ぶと、数年後に思いもよらないリスクとして跳ね返ってくるかもしれません。
もし自宅の庭やベランダで成長の早い植物を育てようと考えているなら、その根が地下でどのように広がる性質を持っているのか、あらかじめ少し調べてみると安心ですね。



