
冬の動物園の風物詩ともいえる「カピバラの温泉」。お湯に浸かってじっとしている姿は非常に愛らしく、見ている人間までほっこりとした気持ちになります。しかし、「そもそもどうしてカピバラは温泉に入るの?」「本当に気持ちいいと感じているの?」と疑問に思ったことはないでしょうか。
実は、そんな素朴な疑問に大真面目に挑んだ研究が存在します。カピバラは日本の厳しい冬で「乾燥肌」に悩むことが多いそう。
そこでカピバラたちを温泉に入れ、そのお肌の変化と目を細めたり耳が垂れたりといった表情から読み取れる「リラックス度」を科学的に検証したという、非常にユニークな事例をご紹介します。
そもそもカピバラは、南米のアマゾン川流域など、年間を通して暖かく湿度の高い環境に生息している生き物です。そのため、日本の寒くて乾燥した冬は大の苦手です。冬になると毛がパサパサになり、皮膚がカサカサに乾燥し、時にはあかぎれができて血がにじんでしまうほどの深刻な「肌荒れ」を起こすことが知られています。
こうした肌荒れや寒さを和らげるため、日本の動物園などではカピバラに温かいお湯を用意することが定番となっています。しかし、これが皮膚科学的、あるいは心理的にどのような効果をもたらしているのかを詳細に調べたデータは、これまで存在していませんでした。
そこで立ち上がったのが、山口大学大学院共同獣医学研究科の研究チームです。彼らは、美肌の湯として地元で親しまれている「湯田温泉」の湯を使い、カピバラを毎日21日間にわたって入浴させるという実験を行いました。この研究成果は2021年に科学誌『Scientific Reports』で発表されています。
結果は驚くべきものでした。21日間の入浴を終えたカピバラを調べたところ、低下していた皮膚の水分量が劇的に増加し、カサカサだった肌荒れが元の健康な状態にまで回復していたのです。さらに、色素沈着を示すメラニンの値が低下し、いわゆる「美白・美肌効果」まで確認されました。また、湯上がり後も30分以上にわたって体温が保たれ、「湯冷めしにくい」という温泉特有の優れた保温効果も実証されました。
そして何より興味深いのは、言葉を話せないカピバラの「表情」を科学的に分析した点です。研究チームはカピバラの目の細め具合や耳のたれ具合といった表情や行動をスコア(数値)化し、快適度を測定しました。その結果、温泉に浸かっている最中のカピバラは、目をトロンと細めて耳をリラックスした状態に倒しており、極めて高いリラクゼーション状態にあることが客観的に証明されたのです。

この研究の重要なポイントは、単に「カピバラの肌荒れが治った」という事実だけでなく、精神的なリラックス効果が皮膚状態の改善に深く結びついている可能性を示唆した点にあります。
これまで、温泉療法が健康に良いという経験則は古くからありましたが、それを動物実験で定量的に実証した例はほとんどありませんでした。カピバラの「表情」を読み解くというユニークなアプローチによって、温泉がもたらす心身両面へのポジティブな効果が科学的に裏付けられたのです。
私たちが温泉に浸かって目を細めるのと同じように、カピバラもまた、心から温泉の癒やしを享受していたことが分かりました。
動物たちの健康管理や生活の質を向上させるだけでなく、温泉が人間の健康増進にどのように役立つかというメカニズムの解明にも繋がるかもしれない研究。次に冬の動物園で温泉に浸かるカピバラを見かけたときは、ツヤツヤのお肌に注目してみてくださいね。


