虫が夜の街灯に集まるのは「平衡感覚を失っているから」という研究結果

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夏の夜、街灯や部屋のあかりの周りを蛾や小さな虫たちがぐるぐると回り続けているのを見たことがありますよね。昔から「飛んで火に入る夏の虫」ということわざがあるように、私たちはなんとなく「虫は光が好きで、惹き寄せられているのだろう」と考えがちでした。

しかし、近年のハイスピードカメラを使った最新の行動解析研究によって、この定説を覆す驚きの事実が明らかになってきました。虫たちは光を目指して飛んでいるのではなく、人工の明かりによって「どちらが上か下か」という上下の感覚(平衡感覚)を狂わされ、コントロールを失って旋回させられていたというのです。

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街灯の周りを乱舞する虫たち. 出典: Himen Baidya / Getty Images

なぜ、これほど身近な現象でありながら、これまで正しい理由が分からなかったのでしょうか。それは、昆虫があまりにも小さく、かつ速く飛び回るため、従来の観察方法では空中で彼らの体がどういう向きになっているのかを正確に追うことができなかったからです。

これまで科学の世界では「月や星の光を頼りに直線的に飛んでいた虫が、近くにある強い人工光のせいで角度を誤認し、渦を巻くように近づいてしまう(背光反射や航法エラー)」という仮説が長年信じられてきました。しかし、最新の高速3Dキャプチャ技術によって昆虫の精密な飛行姿勢が可視化されたことで、この従来の説に大きな疑問が投げかけられることになりました。

研究チームが分析した結果、夜飛ぶ昆虫たちには「明るい方向(自然界では空や月)に背中を向けて飛ぶ」という基本的な習性(背光反応:Dorsal Light Response)があることが判明しました。重力が小さく体も軽い昆虫にとって、空からの光は「どちらが上か」を瞬時に判断するための最も信頼できる手がかりだったのです。

しかし、足元や横から照らす人工の街灯が登場すると、このシステムが裏目に出てしまいます。虫は灯りを見つけると、無意識に「光がある方向=上(空)」だと錯覚し、光に向かって背中を向けようと体を傾けます。その結果、本来は水平に飛ぶはずが、背中を光源に向けたまま飛行するため、自動的に明かりの周りをぐるぐると旋回するような軌道を描いてしまうのです。つまり、彼らは光に集まっているのではなく、「上下の感覚を失って捕らわれてしまっている」のが真相でした。

この発見は、単なる「生き物の不思議」を解明しただけにとどまりません。人間が作り出した夜間の過剰な照明(光害:ひかりがい)が、生態系にどれほど大きな影響を与えているかを再認識させる大きなきっかけとなっています。

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最新技術で解明された昆虫の飛行姿勢解析. 出典: bioRxiv

感覚を狂わされた昆虫たちは、一晩中明かりの周りを飛び続けて疲弊し、天敵の鳥やカエルに食べられたり、繁殖の機会を失ったりして命を落とします。世界的な昆虫の減少が問題視される中、照明の波長を変えたり、光が上に漏れないようなカバーを取り付けたりすることで、昆虫の感覚を惑わさない「地球環境に優しい照明デザイン」の開発が進められています。

長年「光が好きだから」と思われていた虫たちの行動は、実は人間が作った人工光によって飛行のシステムを不具合を起こされた結果でした。

一見すると当たり前に思える現象でも、テクノロジーの進化によって新しい事実が次々と明らかになっていくのは科学のとても面白いところです。夜の街灯でぐるぐる回る虫を見かけたときは、「光が好きなんじゃなくて、天地がわからなくなっているんだな」と、少し違った視点で観察してみてはいかがでしょうか。

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