夜の高速道路や長いトンネルに入ったとき、独特の温かみがある「オレンジ色のライト」に包まれた経験はないでしょうか。あるいは、最近ドライブをしていて「そういえば昔に比べて、白いすっきりしたライトが増えた気がする」と感じた方もいるかもしれません。
普段何気なく通り過ぎてしまう道路の照明ですが、かつて高速道路やトンネルでオレンジ色の光が圧倒的多数を占めていたのには、ちゃんとした理由が存在します。決して「なんとなく雰囲気を良くするため」や「目立ちやすくするため」といったデザイン上の都合だけではありません。
そこには、排気ガスや排煙が立ち込める昭和の道路環境と、当時の照明テクノロジーが抱えていた意外な制約が深く関係していました。

この「オレンジ色の照明」の正体は、ランプ内部でナトリウム元素を放電させて発光させる「低圧ナトリウムランプ」や「高圧ナトリウムランプ」と呼ばれる照明器具です。
高度経済成長期から昭和の終わりにかけて、日本全国で高速道路や長大トンネルの建設が急速に進められました。その際、ドライバーの視界をいかに確保し、安全に走行させるかが大きな課題となっていました。
当時は現代のように車の排気ガス規制が厳しくなかったため、トンネル内にはディーゼル車などから排出される黒煙やチリ(浮遊粒子状物質)が充満しやすい環境でした。また、沿岸部や山間部の高速道路では、濃い霧の発生によって視界が悪化するリスクが常に付きまとっていたのです。
では、なぜそうした環境下で「オレンジ色の光」が選ばれたのでしょうか。主な理由は物理的な性質と電気効率の2点にあります。
1つ目の理由は、「光の波長と透過性」です。
光は波のような性質を持っており、赤やオレンジといった色の光は「波長が長い」という特徴があります。波長が長い光は、空気中の細かい排気ガスの粒子や水滴(霧)にぶつかっても光が散らばりにくく(散乱しにくく)、遠くまで届きやすいという性質を持っています。
物理学における「レイリー散乱」の理論でも示されている通り、青色などの波長が短い光は小さな粒子によって散乱されやすいのに対し、オレンジ色の光は障害物をすり抜けて遠くまで見通すことができます。排気ガスや霧で視界がかすみやすい道路において、遠くの道路標識や先行車を視認するために、オレンジ色の光は非常に都合が良かったわけです。
2つ目の理由は、「当時の省エネ性能(発光効率)」です。
半導体技術が発展する前の時代、白熱電球や一般的な蛍光灯は大量の電気を消費するわりに明るさが足りませんでした。一方で、低圧ナトリウムランプは投入した電気エネルギーを光に変換する効率(発光効率)が非常に高く、少ない電力で強力な明るさを生み出すことができました。長距離を夜間ずっと照らし続けなければならない高速道路において、この電気代の安さは圧倒的なメリットだったのです。
しかし、テクノロジーの進化と時代の変化によって、このオレンジ色の照明を取り巻く状況は一変しました。
最大のきっかけは、LED(発光ダイオード)技術の飛躍的な進化と普及です。現在では、省エネ性能や寿命の長さにおいてLEDがナトリウムランプを大きく上回るようになりました。
さらに、自動車の排ガス規制が進んだことでトンネル内の空気が非常にクリーンになったことも影響しています。黒煙で視界が遮られることが少なくなったため、あえて波長の長いオレンジ色の光を使わなくても、白い光で十分に遠くまで見通せる環境が整ったのです。
また、色の再現性(演色性)も大きな違いです。オレンジ色のナトリウムランプの下では、すべての物体が黒や茶色っぽく見えてしまい、車のボディカラーや標識の色、事故時の状況を正確に判別するのが難しいという弱点がありました。一方、白くて明るいLED照明であれば、昼間に近い自然な色合いで周囲を観察できるため、防犯や事故防止の面でも大きなメリットをもたらします。
かつて道路の安全を陰で支えていたオレンジ色のナトリウムランプですが、現在は順次LEDへの切替工事が進められており、その姿を徐々に減らしつつあります。
現代の私たちが白く明るいLEDの下で快適にドライブできるようになった背景には、車の排ガス低減技術と、照明技術の進化という二つのイノベーションが重なり合っていると言えます。
次に高速道路やトンネルを通るとき、もしオレンジ色の光を見かけたら、「昔の技術者たちが知恵を絞って視界を守っていた名残なんだな」と思い出してみると、いつものドライブが少しだけ味わい深く感じられるかもしれません。



